日本のアートと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、伝統的な形式やグタイの戦後運動、さらにはアニメ・マンガ文化や村上隆が率いるスーパーフラット美学などです。
しかし、1980年代における日本の国際化がアートの表現や社会、アイデンティティの変化に与えた影響について考察する調査はあまり行われていませんでした。
そのギャップを埋めてくれるのが、「Prism of the Real: Making Art in Japan 1989-2010」と題された広範で緻密にキュレーションされた展覧会です。
この展覧会は、日本の現代アートの進化を、新たな視点で紹介しています。
東京国立近代美術館と香港のM+との共同企画によって、作品のさらなる国際的な視野を強化する試みが行われています。
キュレーターのドリュン・チョンは、プレスウォークスルーの際に、国際化はこの展覧会の主題だけでなく、中心的なメッセージであると強調しました。
タイトルが示すように、焦点は「日本のアート」ではなく「日本でのアート制作」にあります。
これは、特に1989年から2010年までの30年間における創造的交流を受け入れる、日本のアートシーンの国際的側面を前面に持ち出しています。
この調査は、1980年代の国際化の最初の兆しから始まり、1990年に転機を迎えました。
この年、中国の経済的隆盛と冷戦の終焉を背景に、実験的なアートが展開されました。
入口には、当時の重要なドキュメンタリー作家である安斎茂雄の写真が展示されています。
彼は、ヨーゼフ・ボイスやナム・ジュン・パイクといったアーティストと日本での出会いを記録しています。
特にこれらの出会いは、国際的なアート界の中での重要性を物語っており、また日本のアーティストがビエンナーレやドクメンタに進出し始めたことを示しています。
展覧会には日本国内外から50人以上のアーティストが参加しており、1990年代からの変革を映し出しています。
堅調な経済成長が続く中、アートの実行や表現がどのように変わり、またそれが日本社会に与えた影響を鮮明にする内容となっています。
「Critical Turn」というセクションでは、1980年代後半に台頭したアーティストが特集され、様々なメディアで独自の物語を展開しています。
彼らは日本が経済大国として台頭する一方で、経済バブルの崩壊によるアイデンティティの揺らぎに直面しました。
森村泰昌、村上隆、柳幸典、中原浩大といったアーティストたちの実践は、個々の動きにとらわれず、デザインやメディア、主題が交錯する複雑な状況を反映しています。
また「The Past Is A Phantom」という第一のキュレーショナル・レンズでは、過去の戦争のトラウマや帝国の名残が日本のアートにどのように影響を与え続けているかが探求されています。
例えば、奈良美智の作品には、戦争やその影響を示唆する要素が含まれています。
彼の子供のキャラクターはしばしばかわいらしさやポップカルチャーと結び付けられますが、一方で戦争の傷跡や環境問題を浮き彫りにしています。
和歌山大学で活躍する風間幸子は、白黒の木版画を通じて、帝国主義の暴力や植民地のナラティブを直接対峙します。
また、矢野賢司の「アトムスーツ・プロジェクト」は、チェルノブイリの事故が日本においてどのように響いたかを示しています。
日本における核のトラウマが、身近な現実として存在することは、アートを通しても伝えられています。
次の「Self and Others」では、グローバリゼーションの進展と共に形成されたアイデンティティの問題が扱われています。
このセクションでは、特に女性アーティストたちが性別や文化的所属を通じた探求を通して、自己表象を越えた集合的な領域に向かって作品を発展させています。
長島有里江の自己写真は、親密さと家庭のシーンを捉え、ジェンダーに関する固定観念を挑戦する内容となっています。
笠原恵美子の「Pink」シリーズは、女性の身体に関する表現を抽象的に描写し、肉体的な欲望と現実を探求しています。
李ビルのソフトスカルプチャーやパフォーマンスは、妊娠中絶や変異、制御といったテーマに挑むが、特に日本と韓国の自らの共通の歴史へのダイアログを開きます。
次に「A Promise of Community」と題されたセクションに移り、アーティストたちが新しい人間関係や社会の役割を考える試みが描かれています。
ここでは、非営利団体のプロジェクトが先進的に展開され、地域社会にアートを持ち込むことに焦点が当てられています。
小沢剛の「ナスビギャラリー」は、配送ボックスをアートスペースに変えることで、自発的なアートの可能性を示しました。
また、ユタカ・ソネの「19台の自転車の輪」は、共同性と依存関係の比喩として具現化され、共同体による支え合いの重要性を提示しています。
展覧会は、今日の国際的状況を反映し、アートが国境や権力の構造を越えて再構成される可能性を示しています。
国際化というテーマは、閉鎖的で対立的な世界における新しい対話の可能性を示唆しています。
画像の出所:observer