フロリダ州マイアミ郊外のドーラルに位置する『息を任せエクスペリエンス(IKI OMAKASE EXPERIENCE)』は、日本の伝統と現代の革新が融合した高級おまかせ料理を提供するレストランとして注目を集めています。今回は、エグゼクティブシェフとしてメニュー考案から経営までを一手に担う、登り川聖弥(のぼりかわ せいや)シェフにインタビューを行い、その独自の料理哲学や店舗の特徴、そして今後の展望について詳しく伺いました。
■愛知県名古屋出身、寿司職人としての豊富なキャリア
登り川シェフは、愛知県名古屋に生まれ育ち、14年以上にわたる寿司職人としての経験を持ちます。修行は日本の有名寿司店『のぶ』マイアミビーチ店での4年半、さらにニューヨークの名店『ブルーリボン』で1年間の経験を経て、南米ペルーの日系レストラン『大阪』でエグゼクティブ板前として4年間にわたり腕を振るいました。ペルーでの経験は、現地の食文化と日本の技術を組み合わせた和ペルー料理の理解を深める貴重な機会となりました。
■息を任せエクスペリエンスの誕生と特色
『息を任せ』は2023年8月にノーラル(Doral)で開業した、おまかせスタイルのレストランで、席数はわずか14席。完全予約制で、丁寧かつパーソナルな接客が特徴です。オープンから約10ヶ月間、地元ドーラルのみならず、1時間半離れたウェストパームビーチやボカラトン、さらにはマイアミビーチの観光客、台湾や中国からの訪問者など多彩な顧客層に支持されています。
ドーラルでの開業に至った背景には、マイアミ市内中心部やマイアミビーチに集中しがちなおまかせ店の少なさを補い、より幅広い地域に和食おまかせ体験を届けたいという狙いがあります。また、登り川シェフ自身が日本での伝統的な技と海外での多文化経験を活かし、独自のメニューを提供しています。

■多言語対応とグローバルなサービス体制
多様な客層に対応するため、『息を任せ』では日本語だけでなく、英語とスペイン語にも対応。スペイン語はペルー滞在経験からの習得であり、タイ語を話せるスタッフも在籍するなど、多言語を駆使したサービスが評価されています。これは特にマイアミのように多様な人種・文化が混在する都市において重要な強みとなっています。
■先進的な調理技術の導入
伝統的な日本料理の技をベースに、『息を任せ』ではモレキュラーガストロノミー(分子ガストロノミー)と呼ばれる最先端の調理技術も積極的に取り入れています。これは分子レベルで食材の性質を科学的に分析・操作し、食感や味わいの新たな可能性を引き出す料理法です。具体的にはドライアイスを使用したスモーク効果や、塩気を凝縮する技術、キャビアのような食材の新たな表現など、ヨーロッパ発祥の食の革新を和食に融合させています。
■個人的な記憶と情熱が息づく料理
登り川シェフは、料理に自らの幼少期の思い出を投影することにこだわっています。例えば、冬のメニューには日本の自動販売機で親しまれるスイートコーンのコンポタージュスープにウニを合わせるなど、故郷愛知での記憶を創造的に表現。夏のメニューでは沖縄の伝統料理「ゴーヤチャンプルー」をアレンジし、独自のグルメ体験を演出しています。これらは単なる料理提供にとどまらず、来店客に日本の季節感や文化の美しさを伝える試みでもあります。

■日本視点による多国籍料理の展開
今後、登り川シェフは日本料理を軸にした多国籍コラボレーションにも意欲的です。既に和とペルー料理を融合した“ジャパニーズペルビアン”イベントは高い評価を得ており、今後はタイ料理とのコラボレーションも計画中です。特徴はペルーやタイの素材を使用しつつ、日本人の視点で創り上げる独自の料理スタイル。これは、現地の文化に敬意を払いつつ、日本料理の伝統美を継承・進化させる新たな挑戦と言えます。
■最後に読者へのメッセージ
「息を任せ」を訪れる機会があれば、ぜひ我々の料理を通して日本の美しさ、四季の移ろい、そして日本の味覚の豊かさを感じていただきたいと登り川シェフは語ります。レストラン所在地はフロリダ州ドーラル市10728 NW 74th Stにあり、アットホームながらも確かな技術と革新を感じられる唯一無二の日本料理体験が待っています。
マイアミエリアで本格的かつ先鋭的な日本食体験を求めるなら、『息を任せエクスペリエンス』は見逃せないスポットです。日本の伝統を尊重しながらも時代の風を取り入れるその味と心意気は、多くの食通や多様な文化背景を持つ人々の心を虜にし続けています。
本インタビューはDiversity Media Networkの記者・Juliana Haによって実施されました。